書籍紹介:WOLF RPGエディターではじめるゲーム制作

フリーのゲーム制作ツール『WOLF RPGエディター(通称ウディタ)』の公式ガイドブックが満を持して遂に登場。著者はもちろん開発者のSmokingWOLFさんだ。主な内容は以下の通り。


★第1部:基本システムで短編RPGを作る(約130P)
★第2部:基礎知識(約90P)
★第3部:システム自作テクニック(約10P)
★添付CD-ROM:サンプルゲーム『紅き魔術師』、『ウルファールのサンプルゲーム』、ユーザーゲーム『DRAGON TEARS』、『Gravity』、『シルフドラグーン ゼロ』


タイトルや目次、ページ配分を見ればわかるだろうが、本書のターゲットがこれからウディタでゲーム制作を始めようとしている初心者なのは明らかだ。しかし、ウディタ本体はインターネットで無償入手可能だし、ウディタの仕様や講座も必要十分なものが既に提供されている。例えば、本書の主要部分であるサンプルゲーム制作を通した基本システムの短編RPG制作については、すうさんの「ウディタ講座」、ぴぽさんの「はじめてのウディタ」が担うべき役割を果たしていると言えるだろう。基礎知識についても公式サイトのマニュアルを見れば事足りる。システム自作テクニックについては確たる権威がいまのところないが、本書の内容は簡単なメニューと戦闘システム自作のヒントに過ぎないし、分量も十分とは言えない。はたして、本書は本当に対価に見合うものなのだろうか?
先に結論を言おう。本書はウディタ初心者にはもちろん、既にウディタに触れている人にも有用である、と。その根拠の多くは本書の内容というより、公式の紙媒体だという点に集約される。換言すれば、今まで紙媒体で存在しなかったウディタの解説が開発者のお墨付きで販売されたということに価値がある。紙媒体の利点として私は以下の点を強調する。


①通読性
②限定性
③モチベーションの向上


①については、インターネットは特定の目的の情報を入手するのには適しているが、総合的な知識を端から端まで通読するという点での利便性では書籍に敵わないという個人的信念による。折りしもウディタがメジャー・バージョンアップしたタイミングでのガイドブックの登場なのだから、これは既存ユーザーにとっても知っていたようで知らなかったウディタの機能を把握する上で格好の資料となるだろう。
②については初心者にとっての話となるが、インターネット上では様々な情報が入手できる一方、情報の受け手にとって許容を超えた量が氾濫しているのも事実だ。自らが制作に着手する前に膨大な情報の海に溺れて先に進めないのでは元も子もない。書籍という自己完結した形で、しかも無条件に信頼できる情報を基にゲーム制作を始めるというのは、実は大変好ましい開発環境だと言えよう。
③は既存ユーザーにとっての話となるが、本書を購入することでゲーム制作のモチベーションが上がる。これは複雑な人間の心理に関わる問題なのでよくわからないが、少なくとも私はムラムラとゲームを作りたいという衝動に駆られた。本書の帯にこんな言葉がある。"【ひつようなどうぐ】 ・パソコン ・このほん ・きみのやるき"。そう、ゲームを作る上で最も大事なのは本人のやる気なのだ!やる気を起こすきっかけがほしい人は今すぐ本書をゲット!(念のため断っておくが、私は工学社の回し者ではない!)
ただし、著者へのカンパ目的などという不純な(?)動機で購入しようと思っている人はちょっと待ってほしい。どこかで聞いた言葉だが、"同情するからカネをやるってんなら、印税収入なんてショボい間接的な方法じゃなくて、直接カネが懐に入るシェアウェア・ゲームを買ってくれ!"という話もある。私はこの言葉で世の中のカネに対するシビアさを実感した。


※余談1
本書収録のサンプルゲーム『紅き魔術師』は今のところインターネット上では入手できない、と思う。『ウルファールのサンプルゲーム』がパロディ等でスタンダードとなったように、『紅き魔術師』がウディタ・ユーザーにとって必須の語彙、あるいはトレンドになることも考えられる。君はTPPに乗り遅れるつもりか!?(念のため断っておくが、私は米国の回し者ではない!)


※余談2
本書にはさりげなくおもしろい記述が散りばめられている。例えば、"毎フレームのキー入力をデータベースなどに記録して、それを再現する自動入力を行えば、いわゆるリプレイ機能を作ることもできます"なんてのがある。厳しい紙幅でなぜこんな上級者向けアイデアの記述が残っているのか…。どうやら著者のサ−ビス精神は編集者の目を掻い潜ったらしい。