リプレイ:アーカム・ホラー(第1回)


↑10ターン目にゲートの一斉破壊を決意する


旧版アーカム・ホラーのリプレイです。今回はソロプレイということで探索者は3人。ソロプレイの場合、初期所持アイテムが増えたり存在ゲート数の限界が8でタイムリミットが緩い等のメリットはありますが、ゲート一斉破壊時の頭数が足りないというデメリットがあります。このリプレイではそのデメリットが顕著に現れる結果となったのですが…、それはさて置き。
ランダムに選んだ結果、探索者はジェニー・バーンズ、ヴィンセント・リー、マンディ・トムプスンに決定。最初の手札から古き印2枚とゲートの発見があり、幸先のいいスタートとなりました。ジェニーがゲート封印、ヴィンセントがモンスター・ハントとアイテム収集、マンディが図書館に籠って呪文漁りと役割分担もすんなり決まり、それぞれ駅を出発。ジェニーは銀の黄昏錬金術協会で地球の幻夢境に入ってアザトースの呪いを入手し、力ずくでもゲート破壊が可能になる一方、ゲートの発見〜古き印のコンボも決まってほくほく。ヴィンセントも順調に怪物を狩って骨董屋でアイテム購入に着手します。しかし、マンディは移動の出目が悪いわ、図書館に行っても叩き出されてばっかりだわと散々。それでも古き印がゲート出現を抑えたり、他の2人の進捗がいいので呑気に構えていたのですが…。
事態が動いたのは7ターン目。ゲートを2つ封印してからはすっかり準備モードで高をくくっていた探索者たちを嘲笑うかのように、創立者の岩にゲートが出現し、そのあおりで災厄の館にクトゥルフ御大が降臨! それでも準備活動を続けていたものの、9ターン目に5個目のゲートが出現したことからそろそろヤバイということになり、10ターン目から手持ちの装備でゲートの一斉破壊に取り掛かることにします。マンディが本の虫になっていた成果としてルルイエの霧(対クトゥルフ用)をジェニーに渡し、マンディにはダイナマイト(ゲート破壊用)を渡してそれぞれ手近のゲートに突入。ジェニーとマンディは無事アーカムに帰還しましたが、ヴィンセントは地獄のイベントで即死! この時点で計算に入っていたピラミッドの青き監視者まで消滅してしまい、ゲート破壊は早くもイタチごっこの様相を呈し始めます。新たに探索者として登場したハーヴェイ・ウォルターズが怪物の従属をうまく使ってゲート破壊に貢献するものの、マンディがゲート破壊に失敗してにっちもさっちもいかず。エースのジェニーが孤軍奮闘しますが、ゲートの出現は待ってくれません。アーカムの破滅値はじわじわと上昇していきます。
それでも我らが探索者グループは最後の望みを掛けて何度目かの一斉突撃を開始。ジェニーは大いなるクトゥルフが鎮座する災厄の館へ赴きます。この災厄の館での冒険は間違いなく今回のクライマックスです。まず、クトゥルフとの遭遇による恐怖判定が成功し、SANの減少を最小限度に止めます。そしてルルイエの霧でクトゥルフから逃走してゲートに侵入、更に異次元で遭った古きものに対して怪物の従属を行い、アザトースの呪いを使わなくてもゲート破壊ができるようになります。ここまではよかったのですが、肝心のゲートの発見に失敗。古きものの恐怖判定が失敗したためにSANの現在値が下がっているジェニーは、次のターンにアーカムに帰還しても療養所送りが確実です(ハウスルールですが、同一ターンで同じ怪物に対して行う恐怖判定は1回のみとしています)。次のターン、ジェニーはゲートの発見の使用を見送って異次元のイベントを続行、なんと奇跡的にも精神の雲を入手してSANの回復に成功! 災厄の館に戻ったジェニーは再びクトゥルフと対峙します。恐怖判定は自動的に成功しますが、ルルイエの霧の詠唱に失敗、逃走も失敗して殴られ、治療で筋力を回復して再び逃走を試みるも失敗してボコられ瀕死の重傷。三度目の正直で挑んだ逃走がついに成功し、古きものをけしかけてゲート破壊を完遂! あれだけ苦しめられたクトゥルフがゲートに巻き込まれて戦利品の山に加わるのを見るのは壮快な気分でした。
しかし、探索者たちの活躍もここまで。別の場所でゲート破壊に成功していたハーヴェイのいる重要地点にゲートが出現、ハーヴェイは即座にルルイエに飛ばされ、黒い巨大な影(あれっ、さっき倒したはずでは?)を目撃してSANをすべて失い消滅してしまいます。このときアーカムの破滅値は13。ヤケクソ気味に創立者の岩のゲートに入ったジェニーはセラエノの大ホールで図書館員の言いくるめに失敗してこちらも消滅。万策尽きたところで新たなゲートが出現し、破滅値が臨界点を超えて22ターン目でゲームオーバーとなりました。
今回の教訓は、ゲートの一斉破壊の決断はなるべく遅くした方がいいという点に尽きます。複数人プレイではゲートの存在限界数が厳しく、頭数もある程度揃っているため、序盤から積極的にゲートに突入するのが正解ですが、ソロプレイでは消耗戦に陥ると物量で圧倒されるのがオチです。今回で言えばジェニーはゲートの発見で1ターン・キルが可能である以上、ゲートが6つになった時点でひとつ潰し、なるべく5つの状態を維持して古き印やゲートの発見の発掘を待つべきでした。また、創立者の岩にゲートが出現した際の怪物大行進を防ぐため、古き印をひとつ温存しておく必要もあるでしょう。それさえ守ればソロプレイでのクリアもあまり運に頼らずにできるかもしれません。でも最終的には運ですね、やっぱり(笑)。

ボードゲーム紹介:アーカム・ホラー(Arkham Horror)


TRPGクトゥルフの呼び声Call of Cthulhu)』で有名なChaosium社から発売されたクトゥルフボードゲーム。2005年にFantasy Flight Games社がリメイクしています。新版はエキスパンションもバリバリ出しているので、今ではそちらの方がスタンダードだと思いますが、今回取り上げるのは絶版となったオリジナルの方です。ちなみに旧版はホビージャパン、新版はアークライト社がそれぞれ日本での販売元になっています。
どんなゲームかというということで、ルールブックの"はじめに"から引用すると、


時は1926年、所はマサチューセッツ州アーカム、この邪悪な過去を秘めた街で奇妙な事件が次々と起きていた。謎の光が墓地で輝き、市民が一人忽然と姿を消してしまった。君は森の中の奇怪なフルートの音を聞いたか? 創立者の岩のまわりの巨大な足跡を見たか? いまやアーカムの人々はパニック同然だ。そして君だけが、勇敢な探索者たちだけがアーカムをこの想像を絶する悪の魔手から救えるのだ。


というゲームなんですが! …雰囲気はビシビシ伝わるけど、ゲームの内容が全然伝わらない(笑)ので、以下簡単に解説。ゲームの舞台となるアーカムでは異世界につながるゲートが次々に開き、クトルゥフ神話生物が街中に溢れ出します。プレイヤーの分身たる探索者たちは怪物とあるいは戦い、あるいは逃走しながらゲートを破壊していくというのが大まかな内容です。


プレイ人数:1〜8人
勝利条件:出現したゲートをすべて破壊する
敗北条件:ゲートが出現するたびに上昇する破滅値カウンターが13を超える、または
     ターン終了時に一定数以上のゲートが存在する(探索者の人数で変動)


ボードゲームというと普通はプレイヤー同士で対戦するものが多いようですが、このゲームはプレイヤー全員が勝利するか、プレイヤー全員が敗北するかのどちらか。クトゥルフ的には全滅はオッケーなので、敗北しても過程が楽しければ問題なし。そういう意味ではTRPGに非常に近いプレイ感覚と言えるかもしれません。ソロプレイが可能なのも対戦者がいないからですね。
ゲームの流れとしては、1ターンが探索者フェイズと神話フェイズに分かれて、それぞれプレイヤーが操作する探索者の行動、NPCたる怪物の行動の解決を繰り返すことで進行していきます。すごろく形式でマップを移動して、ゲート破壊のための準備をしたり、遭遇した怪物と戦ったり。TRPGクトゥルフの呼び声』と違って探索者たちは完全武装やら呪文使いまくりやらなキチガイ連中(笑)なので、結構戦えます。それでも旧支配者に勝つのは至難の業ですが(クトゥルフは物理攻撃無効のSP30…)。勝てそうになかったら逃げるのは、クトゥルフ・ゲームである以上やっぱり基本中の基本です。
で、このゲームの最大のポイントはゲート。勝利条件と敗北条件のいずれにも絡んでいることからわかる通り、このゲームをうまくプレイするためにはゲート関連のルールを把握することが欠かせません。ゲートは毎ターン神話フェイズの最初に出現判定があり、探索者が重要地点で起こすイベントでも出現することがあります。ゲートは単に破壊するだけでは再び出現してしまうため、何も考えずにゲートを破壊しても意味なし。幸い既にゲートが存在する場所にはゲートが出現しないので、ゲートが多く存在している状況では新規のゲートが出現しにくいというのがミソです。序盤はゲート破壊の準備を入念に行って、後半一気にゲートを破壊する、はっきり言ってこれしかありません。古き印が潤沢にあれば話は別ですけど。


ボードゲームが好きな方にはもちろんですが、クトゥルフのゲームを遊んでみたいけどTRPGはちょっと敷居が高い…という方にもオススメの一品。さあ、一緒にアーカムを駆け回って世界を救おう!

書籍紹介:WOLF RPGエディターではじめるゲーム制作

フリーのゲーム制作ツール『WOLF RPGエディター(通称ウディタ)』の公式ガイドブックが満を持して遂に登場。著者はもちろん開発者のSmokingWOLFさんだ。主な内容は以下の通り。


★第1部:基本システムで短編RPGを作る(約130P)
★第2部:基礎知識(約90P)
★第3部:システム自作テクニック(約10P)
★添付CD-ROM:サンプルゲーム『紅き魔術師』、『ウルファールのサンプルゲーム』、ユーザーゲーム『DRAGON TEARS』、『Gravity』、『シルフドラグーン ゼロ』


タイトルや目次、ページ配分を見ればわかるだろうが、本書のターゲットがこれからウディタでゲーム制作を始めようとしている初心者なのは明らかだ。しかし、ウディタ本体はインターネットで無償入手可能だし、ウディタの仕様や講座も必要十分なものが既に提供されている。例えば、本書の主要部分であるサンプルゲーム制作を通した基本システムの短編RPG制作については、すうさんの「ウディタ講座」、ぴぽさんの「はじめてのウディタ」が担うべき役割を果たしていると言えるだろう。基礎知識についても公式サイトのマニュアルを見れば事足りる。システム自作テクニックについては確たる権威がいまのところないが、本書の内容は簡単なメニューと戦闘システム自作のヒントに過ぎないし、分量も十分とは言えない。はたして、本書は本当に対価に見合うものなのだろうか?
先に結論を言おう。本書はウディタ初心者にはもちろん、既にウディタに触れている人にも有用である、と。その根拠の多くは本書の内容というより、公式の紙媒体だという点に集約される。換言すれば、今まで紙媒体で存在しなかったウディタの解説が開発者のお墨付きで販売されたということに価値がある。紙媒体の利点として私は以下の点を強調する。


①通読性
②限定性
③モチベーションの向上


①については、インターネットは特定の目的の情報を入手するのには適しているが、総合的な知識を端から端まで通読するという点での利便性では書籍に敵わないという個人的信念による。折りしもウディタがメジャー・バージョンアップしたタイミングでのガイドブックの登場なのだから、これは既存ユーザーにとっても知っていたようで知らなかったウディタの機能を把握する上で格好の資料となるだろう。
②については初心者にとっての話となるが、インターネット上では様々な情報が入手できる一方、情報の受け手にとって許容を超えた量が氾濫しているのも事実だ。自らが制作に着手する前に膨大な情報の海に溺れて先に進めないのでは元も子もない。書籍という自己完結した形で、しかも無条件に信頼できる情報を基にゲーム制作を始めるというのは、実は大変好ましい開発環境だと言えよう。
③は既存ユーザーにとっての話となるが、本書を購入することでゲーム制作のモチベーションが上がる。これは複雑な人間の心理に関わる問題なのでよくわからないが、少なくとも私はムラムラとゲームを作りたいという衝動に駆られた。本書の帯にこんな言葉がある。"【ひつようなどうぐ】 ・パソコン ・このほん ・きみのやるき"。そう、ゲームを作る上で最も大事なのは本人のやる気なのだ!やる気を起こすきっかけがほしい人は今すぐ本書をゲット!(念のため断っておくが、私は工学社の回し者ではない!)
ただし、著者へのカンパ目的などという不純な(?)動機で購入しようと思っている人はちょっと待ってほしい。どこかで聞いた言葉だが、"同情するからカネをやるってんなら、印税収入なんてショボい間接的な方法じゃなくて、直接カネが懐に入るシェアウェア・ゲームを買ってくれ!"という話もある。私はこの言葉で世の中のカネに対するシビアさを実感した。


※余談1
本書収録のサンプルゲーム『紅き魔術師』は今のところインターネット上では入手できない、と思う。『ウルファールのサンプルゲーム』がパロディ等でスタンダードとなったように、『紅き魔術師』がウディタ・ユーザーにとって必須の語彙、あるいはトレンドになることも考えられる。君はTPPに乗り遅れるつもりか!?(念のため断っておくが、私は米国の回し者ではない!)


※余談2
本書にはさりげなくおもしろい記述が散りばめられている。例えば、"毎フレームのキー入力をデータベースなどに記録して、それを再現する自動入力を行えば、いわゆるリプレイ機能を作ることもできます"なんてのがある。厳しい紙幅でなぜこんな上級者向けアイデアの記述が残っているのか…。どうやら著者のサ−ビス精神は編集者の目を掻い潜ったらしい。

バンド紹介:Genesis


1967年、イングランドのサリー州ゴドルミングで結成。ピーター・ガブリエルPeter Gabriel)を中心に、パブリック・スクールの同級生だったトニー・バンクス(Tony Banks)、マイク・ラザフォード(Mike Rutherford)等が参加した。1969年、デビュー・アルバム『From Genesis to Revelation』を発表。その後、バンドのサウンドプログレッシヴ・ロックの方向に変化し、1970年に2ndアルバム『Trepass』を完成させる。メンバー変更によってフィル・コリンズPhil Collins)、スティーヴ・ハケット(Steve Hackett)も加入して全盛期の体制が整うと、1971年に3rdアルバム『Nursery Cryme』、1972年に4thアルバム『Foxtrot』と立て続けに傑作をものにして評価を確立した。しかし、独特のパフォーマンスで人気の立役者となっていたピーターが脱退するとフィルがバンドを主導するようになり、1986年の13thアルバム『Invisible Touch』が世界的な大ヒットを記録する等、バンドはポップなイメージに様変わりする。1999年に一度解散したが、2006年に再結成。この再結成にピーターは参加していない。


ロックの歴史を顧みると、カリスマ性のあるフロントマンがいなくなって存続の危機に立たされたバンドが、残りのメンバーで立て直しを図って以前より成功した例がいくつかある。有名なところではPink FloydDepeche Mode。だが、シド・バレットSyd Barrett)やヴィンス・クラーク(Vince Clarke)はどちらもそれぞれのバンドの最初のアルバムに参加しているに過ぎない。その点、6枚ものアルバムに参加しているピーター・ガブリエルGenesisはかなり特殊なケースだろう。『Invisible Touch』のせいで一般にはすっかりフィル・コリンズのバンドということになっているが、後世に語り継ぐべきがピーター・ガブリエル時代であることは言うまでもない。試しにレコード屋に行ってみればわかるだろうが、Genesisプログレッシヴ・ロックの棚に置かれているのだ。King CrimsonPink Floyd、Yes、Emerson, Lake & Palmerの所謂プログレ四天王に比べると格が落ちると考えられているようだが、それはGenesisの真の魅力がプログレッシヴ・ロックの範疇に入っていないからだろう。ピーター・ガブリエルはえも言われぬ魅力がある。

Nursery Cryme

Nursery Cryme

1971年発表、Genesisの3rdアルバム。ジャケットはアルバム冒頭の「The Musical Box」の背景となる物語を絵にしたもので、不気味でメルヘンチックな雰囲気、というこの時期のバンドの特徴がよく表れている。最高傑作の呼び声高い4thアルバム『Foxtrot』とは甲乙付け難いが、まだ完成していないがゆえの成長過程にある勢いを感じるならばやはり本作。他の超絶テクニシャンなプログレ勢の中で彼等が輝いたのは、ライヴ・パフォーマンスもさることながら実はその青さゆえではないだろうか。最初は異質な感のあるスティーヴ・ハケットのメタリックなギターも聴いている内にクセになる。

Foxtrot

Foxtrot

1972年発表、Genesisの4thアルバム。20分以上にも及ぶ組曲「Supper's Ready」を核としてピーター・ガブリエルの個性が遺憾なく発揮されており、ライヴでも本作の演劇性を活かしたケバケバしい仮装や道化のような所作で独自の世界を構築し、人気を博した。トニー・バンクスのメロトロンが存在感を示す壮大なサウンド・スケールも印象的で、まさにバンドの集大成と呼ぶにふさわしい。しかし一方で、Genesisピーター・ガブリエルのワンマン・バンドだという認識を助長し、結果的に黄金時代終焉の種を蒔くことにもなった罪なアルバムのようにも思える。

感想:ネコかん


milwilさん作のウディタ製横スクロールACT。
甘いものが大好きな人々の世界から甘さを奪った激辛大王に立ち向かい、失われたシュガースフィアを取り戻すべくネコかんが大活躍するというメルヘンチックなゲーム。主人公のネコかんや敵キャラを始め、かわいらしい自作グラフィックが親しみやすいほのぼの感を出している一方で、アクションの内容はいたって本格的だ。任天堂が出しているようなこの手のACTが好きな人にはたまらないだろう。これだけのクオリティと遊びやすさを兼ね備えているなら、携帯アプリ等で市販されていてもおかしくない。
基本操作は移動、ジャンプ、攻撃のオーソドックスな3種類。しかし、細かい点を見ると移動ではダッシュ、ジャンプでは浮遊、攻撃ではエコというシステムがある。重要なのは後ろの2つで、ジャンプの後にエンターキーをもう一度押すことによる一定時間の浮遊は本作を攻略する上で欠かせないテクニックだし、特定の敵を倒すことで得られる様々なエコは攻撃のバリエーションを増やしてステージの特性に合ったプレイを楽しませてくれる。例えば、"エレキ"というエコなら全方位攻撃が可能だし、"ルナ"というエコなら遠距離攻撃が可能だ。エコは一定ダメージを受けるとデフォルトの"ネコパンチ"に戻ってしまうが、デフォルトの攻撃方法でもクリアする上では問題ない(シュガースフィアをすべて集めるにはある種のエコが必要なようだが)。
セーブはオートセーブなので好きなときに中断して構わないが、その場合は残機とエコがデフォルトになるので注意。とはいえ、アクション性が高くなる後半ステージにしてもそれほど難しくないし、意外と長い本作をプレイする上でそんなことを気にしていては社会人プレイヤーはやってられない。ちなみに、作者提示のプレイ時間はなんと6〜7時間! ファミコン時代のようなセーブなしACTでこの長さだったら殺人的なボリュームだ。残機2、エコは"ネコパンチ"でボス戦に挑むくらいの潔さは必要とされるだろう。
最終ステージの激辛大王を倒せばゲームは一応クリアとなるが、やはり達成度100%を目指したシュガースフィアの収集に手を出す人も多いのではないだろうか。逆に、激辛大王を倒さずにテキトーに途中までプレイして満足する人もいるかもしれない。ポップでライトなACTは今も昔も様々なレンジの人々を引き付けてきたし、それゆえに楽しみ方も人それぞれ。私個人は大して興味のないジャンルだが、このゲームの包容力には感心させられる。

感想:SPLIT LIFE


J.Belemさん作のウディタ製ホラー・アクションADV。
主人公は記憶喪失(?)の状態で眼を覚まし、自分がいる建物から外に出ることができない。突然襲い掛かってくる殺人機械から逃れ、謎の少女に翻弄されながらも脱出を図るという、いわゆるソリッド・シチュエーション的な内容のゲームだ。あらかじめ言っておくと、プロローグなしにいきなり放り出されたり、画像もメニューもデフォルトそのままな印象なので最初の押しが非常に弱い。ちょっとプレイして放置する人が多いかもしれないが、その早合点はもったいないので我慢してプレイしてほしい。本作独自のシステムと凝ったリドルが登場する頃にはすっかり夢中になっているはずだ。
最大の特徴はやはりスプリット・モード。一定時間、幽体離脱のような形で肉体を離れ、障害物をすり抜けたり敵を引き付けたりすることができる。ゲームが進むに従って、スプリット・モードにおける視覚や触覚といった五感が備わっていき、探索の幅も広がる。一見シンプルなようだが、本作ではこのシステムを核にして様々な謎解きを提示しており、なかなかどうして奥が深い。どのように絡めているかはネタバレになるので詳述しないが、敵を引き付ける機能に限って言っても、主人公が攻撃できない本作で生き残るには必須の要素だ。
メインとなる謎解きについては、アクションを絡めたものももちろん楽しいのだが、アクション性がないものもプレイヤーに連想や試行錯誤を求める秀逸なものが多く、よくできている。注目すべきはその伏線の張り方だ。ヒント自体がさりげなく置かれているために気づきにくく、解法の手掛かりを得る時点で思考を要する。やり応えは十分だが、それゆえに難易度も比較的高くなっており、気軽にプレイしてクリアできるゲームではない。詰まっても作者ホームページの攻略チャートを見れば先に進むことはできるが、当然ながらそれでは本作を最大限に楽しんだとは言えないだろう。
なお、クリア後には特典として設定資料を見ることができる。中でも嬉しいのがメカ・デザインのイラストで、ゲームをプレイしていて妙に印象に残った殺人機械たちの詳細な姿が描かれている。もし作者が次回作を作る予定があるなら、このデザイン力を活かしてビジュアル面でも楽しませてくれる作品を作ってほしいところだ。

感想:BloodOfHell


moniさん作のウディタ製ホラー・ガンシューティング
舞台はアメリカ北西部の中規模程度の都市。一夜にして廃墟と化し、バケモノが徘徊するようになった街を脱出せよ…と言うと某有名コンシューマーゲームが思い浮かぶ(ただし、向こうは中西部の都市)。ゾンビは出てこないものの、大方がプレイ前に抱く期待を裏切ることはないだろう。緻密なグラフィックとシステム、ツボを押さえた演出や渋い雰囲気は、本作がフリーゲームであることをしばしば忘れさせるほど。ウディタ製ゲームには市販ゲームと比べても遜色ない作品がいくつかあるが、いい意味でも悪い意味でもフリーゲームらしい"我"がほとんど感じられない作品というのは珍しい。こういう抑制された作りは個人的に好みだ。
操作はキーボードによる移動、マウスによる照準と射撃が基本となっている。序盤は所持している武器の性能と不慣れな操作という状況下でかなり慎重な捜索が要求されるが、武器が強力になるのに合わせて敵も人海戦術で迫るようになり、アクション性が高くなる。群がる敵にマシンガンをぶっ放す中盤以降はかなり爽快。ラスボス戦に至ってはもはやアクションゲームと言っていい。この傾向を是とするか否かはプレイヤーの嗜好次第だが、ガンシューティングを標榜する以上はこれくらいやるべきだろう。
ゲーム画面はトップビュー形式を採用している。当今流行のFPSと違って全方位の視界が確保されるため、ホラーには不向きではないかと思ってしまうが、扇状視界を取り入れているためまったく問題ない。見えない敵の咆哮はホラー的にもゲーム的にも十分機能しているし、一人称視点よりもアクション性を強く感じることができるという利点もある。もちろん、FPSを実現するための技術的な問題からトップビューにせざるをえなかったという話は大いにありうるが、トップビューにはトップビューの魅力があるということだ。
全体的に難易度はそれほど高くなく、流血等の若干のグロテスク表現に気後れしないのであれば気軽にプレイできる。弾薬や回復アイテムは敵を倒した際に得るポイントで際限なく購入できるため、慣れると緊張感がなくなる恐れがあるが、お気に入りの銃を好きなだけ乱射するのが本来の楽しみ方なのかもしれない。
バージョンアップでライフルに独自の視点を取り入れるといった大幅機能追加があったり、作者が続編の制作について言及していたりと今後の展開も気になるところだ。続編では事件の真相が明かされるようだが、この手のゲームで下手に説明が始まると急に萎えることがあるので、謎は謎のままにしておくというのも悪くない気がするが…。例えばホラー映画の名作では、トビー・フーパー(Tobe Hooper)の『悪魔のいけにえ(The Texas Chain Saw Massacre)』で一家が殺人に手を染める経緯には触れないし、ジョージ・A・ロメロ(George A. Romero)の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッドNight of the Living Dead)』でゾンビが発生した原因は定かでない。ホラーにおいてシチュエーションは所与のものと割り切るのは強力な方法論だと思う。