バンド紹介:Public Image Ltd.


1978年、イングランドのロンドンで結成。Sex Pistolsを脱退したジョン・ライドンJohn Lydon)を中心に、キース・レヴィン(Keith Levene)、ジャー・ウォブル(Jah Wobble)等が参加した。同年、デビュー・アルバムの『First Issue』を発表してパンク以降のサウンド=ポストパンクを提示する。1979年の2ndアルバム『Metal Box』はポストパンクの金字塔と目されており、ローリング・ストーン誌が2003年に企画した"The 500 Greatest Albums of All Time"にランクインする等、高い評価を受けている。その後、それまでのサウンドの要と言えるベースのジャーが離脱。1981年の3rdアルバム『The Flowers of Romance』は前作と異なるアプローチで野心的な傑作となったが、4thアルバム発表前にギターのキースも脱退し、以降のバンドは実質的にジョンのソロ・プロジェクトと化した。1992年の8thアルバム『That What Is Not』を最後に長らく活動停止状態にあったが、2009年には1980年代後半のメンバーを中心に再結成し、積極的にライヴ活動を展開している。


ジョン・ライドンSex Pistolsゆえに偉大なのではなく、Public Image Ltd.(以下PIL)ゆえに偉大なのだと声を大にして言いたい。確かに、Sex Pistolsでジョンがそれまでの既成概念を徹底的に破壊して「ロックは死んだ」とまで宣言したことは、無限の可能性を後進に残したという意味で偉大極まりないことだった。一方で、パンク以後の更地に新たなロックを創造することもジョンが先頭に立って行ったという事実は興味深い。もちろん、それは彼ひとりでできたことではなく、キース・レヴィンやジャー・ウォブルといった才能が傍にいたからなしえたことであり、彼等を失った4thアルバム以降のバンドは未来への鍵を見失ってしまった。PILが2nd、3rdアルバムによって表現したものこそがロックの本質であり、それはタイムレスだ。Sex Pistolsは歴史の中で語られるが、音楽で後世に直接訴えかけることはないだろう。だが、PILはアルバムにその魅力を余すことなく詰め込むことに成功した。私たちは時代を超えて彼等に触れることができる。ジョン・ライドンは偉大だ。

Second Edition

Second Edition

1979年発表、PILの2ndアルバム。当初限定発売された缶入りバージョンの『Metal Box』というタイトルの方がよく知られており、後に通常の形でリリースされた上掲の『Second Edition』も含めて『Metal Box』と呼ばれることが多い。まだパンク色が残っていた前作『First Issue』と比べると、本作でPILは完全にパンクを脱却していることがわかる。しばしばクラウト・ロックとダブの融合と表現されるそのサウンドは、前者の実験性、後者のリズムを取り込みつつロックとダンス・ミュージックの境界を完全にブチ壊している。熱狂できないロック、踊れないダンス・ミュージックがこれほど麻薬的な魅力を持っているとは実に不思議だ。

Flowers of Romance

Flowers of Romance

1981年発表、PILの3rdアルバム。2ndアルバム『Metal Box』で完成したPILのサウンドはジョンのボーカル、キースのギター、ジャーのベース抜きには語れないが、最も存在感を発揮していたジャーがいなくなった本作は必然的にPILの問題作となる運命にあった。しかし、その問題作が彼等の最高傑作になるといったい誰が考えただろうか? ベースはおろか、ギターさえもほとんど封印した状態で研ぎ澄まされたドラムスの刻む原初的なビート、読経のような異様さで迫るボーカルのリフレインは圧倒的だ。Talking Headsと比較する向きもあるだろうが、ワールド・ミュージックへの接近と言うより、宗教音楽への接近と言った方がしっくりくる。